生酛と山廃は伝統的な製法の名称です。より効率的な製法が生み出されたため今ではほとんど用いられていませんが、独特の風味を持っているとされ、いくつかの酒蔵は今もこの製法にこだわっています。
生酛とは
酒は麹や酵母などの微生物によって造られます。その過程で余計な微生物が繁殖しないよう、乳酸菌が産生する乳酸が必要になります。伝統的な方法は天然の乳酸菌を育てた生酛を使うのですが、日数も手間もかかり、品質も安定しません。一方で乳酸菌を育てる過程で複雑で濃醇な味わいになるとされます。
山廃とは
生酛を作る際に米をすり潰す山卸と呼ばれる工程があるのですが、これがかなりの重労働で、数人がかりで何度も行う必要があります。伝統的に行われてきた山卸ですが、国立醸造試験所(現在の酒類総合研究所)によって山卸を行わなくても成分と品質に違いは無いとされ、山卸を廃止する酒蔵が増えていきました。山卸を廃止した酛、略して山廃と呼ばれます。
人工乳酸の利用
山廃と同時期、人工乳酸を投入する速醸という方法が生み出され、これが今の主流です。そもそも生酛を作らないので手間がかからず、安定した品質を維持できるため瞬く間に広まりました。味が劣るとは思われていません。生酛に比べてすっきりした味わいになります。
今でも生酛と山廃が用いられる理由
いくつかの酒蔵は生酛や山廃の伝統的製法に回帰しています。非常に手間がかかりますが、速醸には無い個性、差別化を求めての事です。天然の乳酸菌で造られた力強く複雑な風味は燗酒としても魅力的です。